野田 進(九州大学大学院法学研究院 教授) ■研究分担者 金 裕盛(ソウル大学法学部 学部長) 林 鍾律(成均館大学法学部 教授) 李 銀榮(韓国外国語大学法学部 教授) ■「韓国の最近の雇用事情と雇用保障法制」の要旨 東南アジアの諸国から始まった一連の金融破綻は、これまで比較的に経済が安定していた東アジアまで広がり、アジア経済全体が危機に瀕している。特に、これまで東アジアの経済を支えてきた日本の経済が長い不況に陥られてからは、韓国を中心とした東アジア諸国の景気は、その落ち込みがますます激しくなっている。韓国に限って言えば、株が暴落し、完全失業率が8パーセントを上回るなど、韓国の経済は朝鮮戦争以来最悪の状態とも言われている。 このような中で、韓国は、日本やIMFからの緊急支援を受け経済破綻は免れたものの、韓国の企業や社会が正常の状態に戻るには、解決しなければならない問題が数多く残されている。その最大の問題の一つが、産業構造の変革や企業リストラによって生じる失業者に対する雇用保障の問題であろう。特に、最近始まった大手財閥同士のBigDeal(事業部門の交換)は、一挙に大量の失業者を排出し、雇用の確保や失業対策が緊急の課題となっており、このような問題は企業リストラが本格化すると事態はより深刻化すると予測される。 日本でも、景気の低迷が続くなか、各企業が終身雇用、年功序列、企業別組合を「三種の神器」とした従来の雇用制度を全面的に見直し始めており、年功給に代わって能力給である年俸制を取り入れている企業も増えている。特に、最近のグローバル化や大競争時代の到来は、既存の日本の価値観を揺るがしており、日本的雇用慣行に慣れている企業は新しい環境にどう対応すべきか戸惑っている。このような日本企業よりもっと戸惑っているのは、実は韓国の企業(労使)である。すなわち、韓国は、これまで日本の労働法制や雇用システムを導入し、後発途上国としてのAdvantageを十分受けてきた。しかし、最近、日本の経済が揺れ動いてからは、アメリカ的な雇用システムの導入を試みるなど、新たなパラダイムの設定に腐心しているが、社会制度や法制度があまりにも異なるために、本格的な制度改革までに至っていない。 九州社会法研究会は、以上のような問題意識から、韓国と日本が現在抱えている共通の雇用問題や失業問題に関する解決策を探るという趣旨から、労働問題に詳しい両国の研究者による共同研究を企画するようになった。その第一ステップとして、去年12月18日には韓国を代表する労働法学者をお招きし、「日韓労働法シンポジウム」を開催する運びとなった。今回のシンポジウムでは、まず、韓国側の3人の先生がそれぞれの研究テーマについて報告を行い、各報告について日本側の先生がコメントをしたうえで、自由討論をするという形で行われた。日本と韓国は、雇用法制から雇用慣行、従業員の意識、労使関係、会社や組合の組織形態に至るまで、世界でも例をみないほど類似する共通点が多い。それにもかかわらず、この分野に限っていえば、両国の研究者間の学術交流は、他の分野に比べて残念なことに極めて少なかったことは事実である。その意味で、この度日韓の労働法学者が共通の問題意識を持ち、お互いに意見を交わす場を設けたのは、これからの両国間の本格的な学術交流のために大きな意義があると思われる。 |
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(写真)熊本のニュースカイホテルで開かれた「韓日労働法シンポジウム」の様子/'99.12.18
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■活動紹介
そして、韓国でのシンポジウムは、2000年3月27日、韓国ソウル大学で開催された。韓国でのシンポジウムでは、経費の相当部分をソウル大学側が負担する形となったが、日本からは、九州大学の河野正輝先生と西南大学の菊池高志先生をはじめ10人の学者が参加した。特に、韓国でのシンポジウムでは、河野先生と菊池先生が、韓国で最も社会問題として登場しつつある「高齢者介護問題」や「労働組合問題」についてそれぞれ発表し、韓国の学者から大きな反響があった。 ■執筆論文
「韓国の最近の雇用事情と雇用保障法制」 李 翻訳・序文 金 裕盛 「韓国における整理解雇法制の導入背景とその実際」 林 鍾律 「韓国の失業問題と雇用増進法制」 李 銀榮 「韓国における非正規(非典型雇用)労働者の契約期間」 ■研究業績 野田進 『休みの知恵』(有斐閣、共著、1991) 『労働契約の変更と解雇』(信山社、1997年) 『「休暇」労働法の研究』(日本評論社、1999年) 『働き方の知恵』(有斐閣、共著、1999年) 『労働法のロールプレイング』(有斐閣、共著、2000年) 『労働法の世界(第4版)』(有斐閣、共著、2001) 金 裕盛 『労働法(1)(2)』(1996年) 『韓国社会保障法論』(1992年) 『社会保障法』(1991年) 『判例教材・労働法』(1987年)ほか多数 林 鍾律 『争議行為と刑事責任』(1982年) 『集団的労使自治に関する法律』(1992年) 『労働法』(1999年)ほか多数 李 銀榮 『Bewohung eines Wohnraums auf Grund dinglicher Nutzungsrechte und ihre Entgeltlichkeit in Zusammenhang mit Antichrese』(Tubingen uni.1977). 『約款規制論』(1984年) 『ドイツ法』(1987年) 『債権総論』(1991年) 『債権各論』(1992年) 『約款規制法』(1994年) 『民法総則』(1996年) 『民法1』『民法2』(1998年) 『法女性学講議』(1999年) ほか多数 |
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